妊婦さんからの訴えで最も代表的な「お腹の張り」ですが、張りがよくわからない、どの状態が張り?と思っている方もいるでしょう。お腹の張りは、多くの人が妊娠期間中に一度は経験しますが、病院を受診した方がいいのかな、赤ちゃんは大丈夫かなと不安に思いますよね。
この記事では、一般的に言われる「お腹の張り」について原因や時期別の症状についての解説、受診が必要な時の目安についてもご紹介します。
妊娠中のお腹の張りはよくある?
妊娠中のお腹の張りですが、そもそもお腹の張りはよくあるものなのでしょうか。
お腹の張りは、生理的なお腹の張りを含めると、よくあることでほとんどの妊婦さんがお腹の張りを経験します。
ですが、生理的に起こるものと、切迫早産などにつながるものの2種類あり、お腹の張りはよくあるものだからといって、全ての状況で様子を見ていてもいいものではありません。
生理的な張りかどうかの判断を自分ですることは難しいですが、生理的なお腹の張りと切迫早産などにつながるお腹の張りの違いについて解説します。
生理的なお腹の張り
妊娠すると赤ちゃんはお腹の中でどんどん成長していくため、赤ちゃんの成長に応じて子宮もどんどん大きくなります。
子宮は妊娠前はこぶしぐらいの大きさですが、赤ちゃんの成長に伴いどんどん大きくなります。その過程で、子宮の筋肉が収縮することがあり、張りと感じることがあるのです。これを、ブラックヒストン収縮と言いますが、生理的なお腹の張りから陣痛や早産につながるかどうかはまだ明らかになっていません。
また、それだけでなく日常生活でのストレスや冷えなどから一時的にお腹の張りを感じることもあります。
切迫早産などにつながるお腹の張り
生理的なお腹の張りを超えるものは、切迫早産などの病気につながるお腹の張りの場合があります。
病的なお腹の張りとは、子宮内感染があったり、早産や切迫早産、常位胎盤早期剥離や子宮破裂につながるような張りです。
張りの頻度が増え、痛みがある場合は生理的なお腹の張りの範囲を超えるため、受診が必要ですが、自分で判断をすることは難しいでしょう。
そのため、病院で超音波検査や分娩鉗子装置モニターなどの検査をして、治療が必要な張りではないかを確認する必要があります。
そもそも「お腹の張り」の原因はなに?
お腹の張りですが、生理的なもの、病的なものも含め張りの原因があります。一般的に言われている張りの原因は以下の通りです。
- ストレスや緊張
- 疲労(動きすぎなどによる)
- 冷え
- 便秘
- 子宮筋腫
- 多胎妊娠
- 性交渉
ストレスや緊張
妊娠中のストレスや過度な緊張はお腹の張りの原因になります。仕事や家庭でのストレスなど個人差はありますが、ストレスが強い場合はパートナーや家族、友人に話を聞いてもらうようにしてストレスをためないようにしましょう。人に話すだけでなく、自分がリラックスできるストレス解消法を持っていると気分転換にもなりますよ。ストレスが強く、まわりに話を聞いてくれる人がいない、誰にも相談できない場合はカウンセリングを受けることもいいでしょう。
疲労(動きすぎなどによる)
妊娠中は妊娠前と比べて疲れを感じやすいことが多いです。妊娠前は一日中動いていたり、立ち仕事をしていたりしても問題なかった方でも、妊娠中は動きすぎが原因でお腹が張ることが多くあります。妊娠中に無理はしないようにとよく言われますが、妊娠中に動きすぎるとお腹が張りやすくなるため、そのように言われているのです。
仕事や家事など、たくさん動いてお腹が張る場合は、休息をしっかりととるようにしましょう。特に仕事の場合、休息をとることが難しいかもしれませんが、立ちっぱなしにならないよう、時々座って休むようにするなど、体を少しでも休めるように工夫をしましょう。
冷え
体の冷えはお腹の張りの原因になります。妊娠中のホルモンバランスの変化によって体温調整がうまくできず、冷えやすくなることがあります。
また、お腹が大きくなることで体のバランスが変わり、姿勢が悪くなることで血流が悪くなり、冷えにつながることもあります。
その結果、冷えからお腹の張りにつながるのです。お風呂で体を温めるだけでなく、腹巻きやレッグウォーマー、靴下を着用するなど体を冷やさないようにしましょう。
暑い時期でも、体を冷やさないよう、特にお腹と下半身を冷やさないように、服装にも注意してくださいね。
便秘
妊娠初期はホルモンの影響で腸の動きが低下することや、つわりにより水分不足になることもあり、便秘になりやすいです。
妊娠中期・後期は大きくなったお腹が腸を圧迫することで、腸の動きが低下し、便秘になります。他にも妊娠中は運動不足やストレスなどから便秘になりやすく、妊婦の約11〜38%が便秘になると言われています。
便秘はお腹の張りにつながりやすいため、便秘にならないよう対策が必要です。水分を1日1.5L程度飲む、食物繊維を含む食事を食べるなど、食生活の改善や運動、トイレに意識的に座るといった生活習慣の改善や対策も必要ですが、それだけでは便秘が改善しないことも多々あります。
その場合は、妊娠中でも服用できる便秘薬を飲むようにしましょう。妊娠中薬を飲むことに抵抗のある方もいるかもしれませんが、薬を飲まずに我慢するあまり、お腹が張ってしまうことにならないよう、医師と相談してくださいね。
子宮筋腫
子宮筋腫があると、お腹が張りやすくなると言われています。子宮筋腫は妊娠中に大きくなることもあるため、痛みが出たり、感染が起こったりすることもあります。子宮筋腫の大きさや個数が大きいほど、妊娠に与える影響は大きいでしょう。
多胎妊娠
多胎妊娠(2人以上の妊娠)の場合、お腹が張りやすいでしょう。単胎妊娠(1人の妊娠)に比べるとお腹が急激に大きくなるため、お腹の張りにつながりやすいです。
性交渉
妊娠中は医師から指導をされていなければ、性交渉の制限はありませんが、体勢によってはお腹の張りを感じることがあります。お腹の張りを感じたら性交渉は中止し、ゆっくり休むようにしましょう。
原因がわからないこともある
お腹の張りですが、原因がわからないこともあります。生活に注意していても、原因となるものがない場合であっても、お腹の張りが増えてしまうこともあるのです。お腹が張った場合は、まずゆっくりと体を休めるようにしてください。
お腹の張り、どれぐらい張ったら注意?
お腹の張りは生理的なものと病的な注意するものがあるのはわかったけれど、どの程度の張りがあれば、心配なのかと感じる方もいるでしょう。
病院への連絡を判断するポイントは以下の通りです。
- お腹の張りが普段より多く、休んでも張りが落ち着かない
- お腹の張りとともに痛みがある
- お腹の張りと出血がある
- お腹が張って胎動がわかりにくい
お腹の張りを自分で判断することは難しいため、普段よりもお腹が張っている気がする、いつもと違うなと思ったら、病院に相談してください。
妊娠時期別のお腹の張り
ここからは、妊娠時期別にお腹の張りについて解説します。お腹の張りと一口に言っても、時期によって様子をみてもいいのか、受診が必要なのかどうかは異なります。また、妊娠経過によっても個人差がありますので、普段よりお腹の張りが多い、違和感がある、痛みが強い場合はまずは病院に相談してくださいね。
妊娠初期(妊娠4週〜15週)のお腹の張り
妊娠初期は赤ちゃんが成長していても、10cmほどとまだ小さいため、子宮の収縮を感じるほどの大きさではありません。そのため、お腹の張りを感じることは少なく、違和感や痛みを訴えることが多いです。
- お腹がふくらんでいる感じがする
- 横の方が少しつっぱる感じがする
- 下痢の時のような下腹部痛がある
このように訴えることがあります。痛みや違和感は、子宮が大きくなることでの違和感や、子宮を支える靭帯が引っ張られることでの痛みを感じることが多いため、基本的には心配ありません。ただし、お腹の痛みが激痛で動けないほど痛みが強い場合や、お腹の痛みだけでなく出血も出ている場合は注意が必要です。
妊娠中期(妊娠16週〜27週)のお腹の張り
妊娠中期のお腹の張りは生活での影響もあります。冷えやストレス、便秘、体を動かしすぎて疲れがある、といった原因が多いです。
そのため、お腹の張りを感じたらまずは体を横にし、休むようにしましょう。体を横にして休むことでお腹の張りがおさまるのであれば、大きな心配はありません。
座ったり横になったりして、張りがおさまるのであれば心配ありませんが、以下のような症状が見られる場合は、おさまるかな?と自己判断して様子を見ず、すぐに病院へ相談しましょう。
- 家事など少し動いただけですぐにお腹が張る
- お腹が張っている時間が長い
- 座ったり横になったりしても張りがおさまらない
- 張りだけでなく出血がある
- 張ったときに生理痛のような痛みがある
妊娠後期(妊娠28週〜41週)のお腹の張り
妊娠後期になると、お腹がかなり大きくなっていて、体も出産に向けて準備を始めるため、お腹の張りが増えやすいです。
妊娠初期や妊娠中期にお腹の張りを感じていなかったり、わからなかったりした方でも、妊娠後期はお腹の張りがわかるようになります。妊娠37週までは定期的にお腹の張りがなければ心配ありませんので、強いお腹の張りを感じた場合は、すぐに休むようにしてください。お腹の痛みが強い場合や、出血がある場合は、病院に相談しましょう。
妊娠37週を過ぎると「正期産」と呼ばれる時期になり、いつでも赤ちゃんを産む準備ができている時期に入ります。赤ちゃんが生まれる前には陣痛が来ますが、定期的なお腹の張りとともに痛みがある場合は陣痛です。初めての出産の場合は特に陣痛がわからないこともあるでしょう。お腹の張りと痛みを感じたら、周期的にきているか、痛みは強くなっているか、張りと痛みの時間はどの程度かを確認します。10分以内もしくは1時間に6回以上のお腹の張りと痛みがある場合は、陣痛です。
お腹が張ったらどうする?
お腹の張りを感じたら、まずはすぐに体を休めるようにしましょう。横になって体を休めるのが一番ですが、外出中など横になるのが難しい場合は、イスやソファにゆったりと座ります。そのまましばらく休憩し、お腹の張りがおさまっているのであればゆっくりと動いてもいいですし、心配はありません。ただ、お腹の張りが頻回になっている場合や、座ったり横になったりしても張りが改善しない場合は、受診が必要です。
立ち仕事や通勤電車に乗るなど、どうしても立って移動したり、仕事をしたりすることもあるでしょう。職場での調整が可能であれば依頼し、座りながら仕事をする、休憩できるようにするなど、工夫してください。職場での調整が難しい場合は、「母性健康管理指導事項連絡カード(※)」を医師に記入してもらい、職場へ調整を依頼する方法もあります。母性健康管理指導事項連絡カードは、通勤緩和(通勤ラッシュを避けるよう、通勤時間の変更をする)や休憩時間の確保、勤務時間の短縮などがあります。
どのぐらい張ったら受診する?
どの程度お腹が張ったら受診したらいいのかと悩むこともあるでしょう。妊娠中は生理的にお腹が張ることもあるため、張りの頻度が多くなく、痛みや出血がない場合は基本的に問題ありません。
切迫早産につながる張りの目安
受診の目安ですが、以下のような場合は、すぐに病院へ連絡し受診を検討しましょう。
- 安静にしていてもお腹の張りがおさまらない
- お腹の張りと出血がある
- お腹の張りとともに痛みがある
お腹の張りがわかりにくい方もいますし、お腹が張っているのに自覚がないという方もいます。お腹の張りが増えると切迫早産につながりますので、なるべく早く病院を受診し医師の診察を受けてください。お腹の張りが増えていても、安静にしたり、張り止めのお薬を使ったりと、適切な治療をすれば妊娠継続でき、赤ちゃんをお腹の中で育てられます。普段よりもお腹が張っているなと思ったら我慢せず、できるだけ早く受診するようにしてくださいね。
激しいお腹の痛みは切迫早産ではないかも
切迫早産はお腹の張りが増えて早産のリスクが高くなっている状態ですが、以下の状態の場合は常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)の可能性があります。
- お腹の痛みが耐えられないほど激痛
- お腹を触るとずっとカチカチに張っている
- 少量の出血がある(ない場合もあります)
胎盤はママの体から赤ちゃんへ、酸素や栄養が送られていて、通常赤ちゃんが生まれた後に胎盤は剥がれ出ます。常位胎盤早期剥離となった場合は、お腹の中に赤ちゃんがいるにも関わらず、先に胎盤がはがれてしまう病気です。この場合、赤ちゃんは酸素が十分に届かず非常に苦しい状況になります。
また、赤ちゃんだけでなく、ママの体も出血が増えてしまい命の危険につながることもある、とても危険な状況です。はじめは切迫早産のようなお腹の張りを感じることから始まり、出血が見られることもあります。激しい痛みを感じる場合は救急車で受診が必要なこともありますので、すぐに病院へ連絡しましょう。
まとめ
お腹の張りは妊娠中よく起こりますが、原因は生活習慣から子宮筋腫などの合併症まで様々あります。また、お腹の張りは生理的に起こるものもあるため、心配し過ぎる必要はありませんが、危険な張りには注意が必要です。自分で大丈夫な張りかどうかの判断は難しいため、自己判断せず、お腹の張りが普段より多い場合や心配な時は病院に相談してくださいね。
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