夫も分娩に参加する立ち会い出産を希望する夫婦が増えています。しかし、立ち会い出産を行った夫婦は「やって良かった派」や「やらない方がよかった派」など正反対の感想が聞かれることもあります。
この記事では、立ち会い出産について徹底解説します。立ち会い出産の流れや夫の役割、メリットやデメリット、妻側・夫側の感想、コロナ禍の出産事情なども紹介。立ち会い出産について知りたい人はぜひ参考にしてみてください。
立ち会い出産する?しない?
分娩の際に家族と共に赤ちゃんを迎える立ち会い出産は、「家族と一緒に分娩を乗り越えたい」「赤ちゃんを家族で迎えたい」という方に人気です。
立ち会う相手には妻の親や兄弟児を選ぶケースもありますが、圧倒的に多いのは夫です。
「分娩に立ち会うことで父親の自覚を持って欲しい」
「産まれてきた赤ちゃんを最初に抱いて欲しい」
「分娩が不安だから傍にいて欲しい」
など、妻が夫に立ち会い出産を求める理由はさまざまです。
一方で、立ち会い出産を拒否する人もいます。
「分娩のときに夫がいても、できることは無い」
「立ち会い出産をすると女性として見られなくなる」
「いきんだり痛がっている姿を見られたくない」
など、立ち会い出産を拒否する妻にもさまざまな理由があるようです。
立ち会い出産のメリット・デメリット
立ち会い出産は任意で選ばれるため、夫婦で話し合って決めることになるでしょう。そこで、判断のポイントとなる立ち会い出産のメリット・デメリットについてみていきます。
メリット
立ち会い出産には以下のメリットがあります。
- 分娩を協同体験できる
- 分娩の大変さが伝わりやすい
- ママの不安が和らぐ
- 一生の思い出になる
- 緊急事態にすぐ判断ができる
妻側から最も重要視されているポイントは、夫も分娩を身近に感じられるという点にあります。
立ち会い出産をしない夫にとって、陣痛で苦しんでいる妻が分娩室に入っていった後はただ待つばかりです。
待っている間に赤ちゃんが産まれるため、分娩室で妻がどれだけ壮絶な体験をしているのか伝わりにくいでしょう。
また、分娩途中に問題が起こり帝王切開などが必要になった際、夫が同じ空間にいると緊急性が伝わりやすいです。医師から同意書などの記載を求められた際、迅速に対応できるという現実的なメリットもあります。
立ち会い出産をしていない場合、分娩室の前で待っていて急に「帝王切開が必要です」と言われたら気が動転してしまう人が多いでしょう。
夫の理解が追いつかなくなってしまい対応が遅れてしまうこともあります。
デメリット
立ち会い出産のデメリットには以下のものがあげられます。
- 痛がっている姿やいきんでいる姿を見られる
- 出血や羊水など出産の生々しい部分を見られる
- 夫の存在が気になって分娩に集中できない
- 理想と違った場合に遺恨や後悔が残る
デメリットは基本的に妻側の感情に由来する部分が多いでしょう。出産に関する生々しい部分を見られることで、夫の気持ちが変わってしまうことへの不安や、分娩の際必死になるあまり夫に暴言を吐いてしまうことを避けたいという方も多いです。
最も大きなデメリットは、妻の理想と違った場合に遺恨や後悔が長く残る点です。特に、緊迫する分娩の現場で夫が倒れてしまったり、妻が思っていたようなサポートを受けられなかったりする場合、長く遺恨や後悔を引きずるケースが少なくありません。夫自身も「不甲斐なかった」と後悔が残ってしまう可能性もあるでしょう。
実際に立ち会い出産をしてみてどうだった?
実際に立ち会い出産をした夫婦に話を聞くと、「して良かった」や「しない方がよかった」などさまざまな感想があります。立ち会い出産してよかった派、立ち会い出産しない方がよかった派には以下のような意見が目立ちました。
立ち会い出産してよかった派
「赤ちゃんを夫と一緒に迎えられたことで、家族としての絆が深まった」
「産まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしてもらえて嬉しかった」
「分娩中、ずっと励ましてくれて力になってくれた」
「大変な思いをして子どもを産んでくれたことに感謝した」
「赤ちゃんが無事産まれたことに感動した」
「父親になったことを実感した」
立ち会い出産してよかった派には、夫婦や家族としての絆の深まりを感じたという意見が多かったです。出産を同じ空間で乗り越えた事で、お互いの存在の尊さを感じたという声も聞かれます。
また、妊娠期間を体験しない男性にとって、出産という壮絶な現場を体験することで「出産ってこんなに大変なことだったんだ」と再認識できたという意見もありました。
立ち会い出産しない方がよかった派
「ずっとオロオロしてるだけで、頑張れの一言もかけてくれなかった」
「血を見て気持ち悪いと言われた」
「分娩中、どこにいればいいのか何をすればいいのか分からなかった」
「多少の血は覚悟してたけど、羊水の臭いなどもあって気分が悪くなった」
立ち会い出産しない方がよかった派も、赤ちゃんが産まれてきた瞬間には喜びの感情が上回っていたようです。しかし、分娩に至るまでの間の対応などに不満が残っているケースが多く見受けられます。
また、「分娩中に何をしていいのか分からない」「こんなに血や臭いがすると思わなかった」など、分娩に対する夫の勉強不足を感じさせる意見も目立ちます。
立ち会い出産すると女に見られなくなる?
立ち会い出産の良し悪しを語る上で、必ず聞かれるのが「立ち会い出産をすると妻を女性として見られなくなる」「立ち会い出産をすると離婚率が上がる」などの意見です。
実際に立ち会い出産をした夫側の意見の中にも「思ったより生々しかった」「壮絶すぎて引いた」などの声が聞かれます。しかし、それ以上に「感動した」「今まで以上に妻を好きになった」なんて声も多いです。
立ち会い出産が原因で離婚やセックスレスなどが起こったという話も聞かれますが、決定的な理由とは断言できないでしょう。さまざまな原因のひとつとして考えられる可能性はありますが、後付け的な理由と思えなくもありませんね。
立ち会い出産について話し合う際に気を付けたいポイント
出産は妻だけでなく夫にとっても家族が増える重大な出来事です。立ち会い出産については、夫婦で充分に話し合って決めることが大切でしょう。
続いては、立ち会い出産について話し合う際に気を付けるポイントを紹介します。
話し合う前に出産について夫婦で学ぶ
立ち会い出産の有無について話し合う際には、事前に夫婦で出産について学ぶ機会を持つことが大切です。
夫にとっては妊娠も出産も、自分では体験することができない現象です。妻の体の変化を身近で見ていても、それを体験できる訳ではないため自分事として考えるのは難しいことでしょう。
結果、出産について全く知識のないまま安易に立ち会い出産を決め、現実とイメージのギャップに打ちのめされる人も少なくありません。現実とイメージのギャップを減らすためには、当事者である妻だけでなく夫にも出産について学んでもらう必要があります。
産婦人科医院や助産院、自治体などで行っている両親学級や分娩教室などに夫婦で参加し、出産について夫婦で積極的に学ぶのがおすすめです。
書籍を読んだり先輩夫婦に話を聞いたりするのもよいでしょう。出産について基本的な知識を得た上で話し合うと、安易に立ち会い出産の有無を決めてしまう事態を避けやすくなります。
妻側の気持ちだけで決めない
妊娠や出産は女性主体で行われるため、妻の気持ちを尊重しがちです。しかし、妻側の気持ちだけで立ち会い出産を決めてしまうと、夫の気持ちが取り残されてしまいます。
立ち会い出産に後悔している夫側の話の中には「妻が望んでいたから断れなかった」「本当は最初から乗り気じゃなかった」という声も聞かれます。
妻からすれば「自分の子どもなのに?」と思うかもしれませんが、恐怖心や拒否感を持っている夫に立ち会ってもらって、望む結果になるでしょうか?反対に、妻側は立ち会い出産を拒否しているものの、夫は希望しているというケースもあります。
希望する理由や反対する理由を、それぞれに丁寧に話し合い、夫婦で納得できるようにしましょう。
【予定日前に夫婦で確認】立ち会い出産の流れと夫の役割
立ち会い出産を行うことに決めたなら、予定日を迎える前に夫婦で流れや夫の役割を確認しておくことが大切です。出産はいつ始まるのか誰にもわかりません。臨月に入るまでには、以下の内容を夫婦で確認しておきましょう。
出産の流れ
出産を行う際、一般的には以下の流れで行われます。
- 陣痛が起こり出産を行う産院に移動する
- 医師の診察を受けてお産の進み具合、胎児の状態を確認する
- 陣痛室へ移動し分娩が進むのを待つ
- しっかりと子宮口が開き分娩が近くなったら分娩室へ移動する
- 分娩台で分娩を行う
- 分娩後、赤ちゃんは臍帯切除などを行い新生児室へ移動する
母親は胎盤などを排出し1~2時間程安静にしてから入院病棟へと移動する
ひとつの部屋で陣痛・分娩・回復までを過ごすことができるLDR室を完備している産院もあるので、産院によって多少流れは異なりますが、一般的には上記のように出産が進みます。当院の場合は陣痛室がないので、分娩室で陣痛・分娩・回復を行います。
立ち会い出産する場合、夫は1~5の工程に付き添うことになります。
場合によって、陣痛が破水から始まったり、陣痛の進みが早く陣痛室をスルーして分娩に進むケースなどもあります。あくまで一般的な流れとして把握しておき、イレギュラーが起こるケースも多いということを夫は理解しておくとよいでしょう。
また、陣痛の時に慌てないように、入院に必要なものをまとめたバッグの確認などもしましょう。
退席するタイミングを決めておく
分娩までの流れの中には、会陰切開や場合によって浣腸などの処置を行うこともあります。こういった処置を行う場合、夫は退席するのか同席するのかを夫婦で事前に決めておくのもおすすめです。
陣痛室でさまざまな処置をするケースも珍しくないため、夫はそういった処置が行われることも把握しておくとよいでしょう。
立ち会い出産中の夫の役割
立ち会い出産は「見学」ではありません。夫は妻と共に出産を乗り越えるため、さまざまな役割を担う必要があります。
陣痛の痛みに耐えるのも、出産をするのも妻にしかできないことですが、どのようにサポートすれば妻の心の負担を減らすことができるのかを考えて行動するとよいでしょう。
夫の立ち会い出産中の役割としては以下のようなものがあります。
- 腰をさする
- マッサージをする
- 手を握る
- 飲み物を飲ませる
- 移動をサポートする
ただし、これらはあくまで妻が望んでいるタイミングで行う必要があります。実際に陣痛を上手く逃せる人ならマッサージされると力みやすくなってしまうこともありますし、あまりの痛みに飲み物を飲む余裕すら無いという人もいるでしょう。
妻の望むタイミングで適切なサポートができるのかどうかが、立ち会い出産を成功させるポイントと言えます。
バースプランの実行は夫がアシストして
出産に対する希望を産院に伝えるバースプラン。分娩中や分娩後に医療従事者に対する要望を伝えたり、分娩中に流して欲しい音楽を希望するなど、どのようなお産をしたいのかを記載したものをバースプランとして事前に提出します。
しかし、分娩当日になると陣痛や分娩に必死な妻はバースプランで申告した内容を確認する余裕が無いことも多いです。そこで、立ち会い出産を行う夫がバースプランを把握し、確認してあげるとよいでしょう。
臍帯の切断を夫婦で行いたいとバースプランに記載しているなら、夫が率先して医師や助産師に声をかけてもよいです。
また、分娩中に好きな音楽をかけて欲しいと希望しているなら「君の好きな音楽がかかっているよ」と教えてあげると、妻の緊張感も和らぎます。
妻が分娩に必死になっているからこそ、夫は冷静にバースプランの実行をアシストしましょう。
気分が優れない時にはしっかりと伝えて退席を
出産は綺麗な面だけではありません。妻の壮絶な様子に緊張してしまったり、血や羊水のにおいで気分が悪くなってしまう人もいるでしょう。これは、妻も理解しておくべきことです。
気分が優れなくなってしまったのなら、しっかりとその旨を伝えて退席することも大切でしょう。万が一、その場で倒れてしまったり動けなくなってしまったりすれば、妻は不安になり医師や助産師の邪魔になってしまうこともあります。
「妻は痛くても苦しくても耐えているから」と我慢した結果、分娩を邪魔してしまっては立ち会い出産がよい思い出とはなりにくいでしょう。自分の限界をしっかりと見極め、耐えられない時には自ら退室してください。
要注意!立ち会い出産で夫がしてはいけないこと
立ち会い出産をして後悔している人の中には、夫の行動にガッカリしてしまったという人も少なくありません。立ち会い出産を成功させるためにも、夫は以下のことに注意してください。
どれ位かかりそう?と聞く
陣痛から出産までは2~3時間で進む人もいれば、24時間以上かかる人もいます。個人差が大きいですが、初産では特に時間がかかる傾向にあります。
陣痛が長引くと、付き添いをしている夫にも疲労が蓄積されてくることでしょう。
しかし「あとどれ位かかりそう?」「まだ産まれないの?」などと妻本人に聞くのはNGです。陣痛の痛みに耐えながら子宮口が開くのを待っている妻の気持ちは、一生終わらない痛みを感じているようなものです。「こっちが聞きたい!」と怒りを買ってしまうのも仕方のないことでしょう。
途中で一度退席したい場合や、お産の進み具合を知りたい場合は、助産師や看護師に妻のいない場所で聞いてみるとよいです。
妻の症状を代弁しない
陣痛中はこまめに助産師や看護師が状態を確認します。しかし、その際に付き添っている夫が「とても痛そうです」「痛がる間隔が短くなっています」などと妻の状態を代弁してしまうと、誤った情報を伝えてしまうことになりかねません。
特に痺れや動悸などの症状はいち早く医師に伝えるべき症状です。妻自身がしっかりと自分の状態を伝える必要があるため、夫は冷静になって妻が症状を伝えられるようサポートしましょう。
ただし、急激に顔色が悪くなったり、震えたりするなど、妻自身が気付いていない症状があれば率先して助産師や看護師に伝えてください。
一時退席する場合は遠くに行かない
分娩は急激に進むこともあります。陣痛が長く続く場合、夫は一時帰宅したり近隣で外食をしたりすることもあるでしょう。子宮口の開き具合などを見て、助産師や看護師が「分娩までまだかかりそう」と言っても、あまり産院から離れない方がよいです。
急激に分娩が進み、立ち会い出産に間に合わなくなる可能性もあります。一時退席中、分娩が進んだ場合には直ぐに連絡を貰えるよう助産師や看護師に声をかけて外出したり、病院から離れ過ぎないようにすることも大切です。
どうだった?コロナ禍の出産事情
新型コロナウイルスの世界的な大流行により、妊娠・出産事情にも大きな変化が起こっています。特に出産に関しては、立ち会い出産の中止や産後の面会禁止など、妊婦や新生児を新型コロナウイルス感染症から守るために、さまざまな対策が行われてきました。
最後に、コロナ禍の出産事情について紹介していきましょう。
感染者急増で予定していた立ち会い出産が急遽中止に
新型コロナウイルスの感染が広がった2020年には、多くの病院や産院が妊婦や新生児を未知のウイルスから守るため立ち会い出産の中止、面会の禁止などの措置を決めました。
そのため、立ち会い出産を希望していたにも関わらず、感染症対策として中止を余儀なくされた人が多く、家族の付き添いも不可能な状態で出産に挑むケースが多く聞かれました。
「もともと立ち会い出産も産後の面会もできないと説明を受けていた。出産に凄く不安を感じた」
「赤ちゃんをコロナから守るため仕方ないことと腹をくくって出産に挑んだ。陣痛中もテレビ電話で旦那に励ましてもらった。」
特に初産の方は強い不安を感じたという声が多く聞かれました。また、テレビ電話などで夫と連絡をとりながら出産したという方もいたようです。
コロナ禍でも立ち会い出産ができたというケースもある
コロナ禍でも、感染状況には波があります。病院や産院によっては感染状況を鑑みながら立ち会い出産を実施していたケースもあります。
ただし、入念な体調管理やワクチン接種など、妊婦や新生児を感染症から守るために細かいルールが設けられていることが多いようです。
「コロナ対策として、陣痛中は別室待機。分娩室に移動する時に合流して立ち会い出産をした」
「立ち会い出産後、旦那は赤ちゃんを抱いたらすぐに帰らされていて、次に会ったのは退院後だった」
コロナ禍の立ち会い出産は大変シビアなケースが多いものでした。従来のようにゆっくりと出産を終えた妻を労ったり、新生児の様子を見たりするのは難しいことが多かったでしょう。
しかし、そんな状況でも立ち会い出産ができたことを喜ぶ人の声も多く聞かれます。
コロナ禍で立ち会い出産を希望する人は、立ち会い出産ができるかどうかを基準にして分娩する病院や産院を選んでいるケースも少なくなかったかと思います。
現在でも、立ち会える人が限られていたり面会回数や時間の制限がある施設もありますが、規制も緩和され、通常通りに戻りつつある施設が多いかと思います。
まとめ
出産は夫婦の数だけストーリーがあります。立ち会い出産をしてもしなくても、最終的に母子ともに健康な状態で出産を終えられれば、それで良しといえるでしょう。
しかし、赤ちゃんの誕生に至るまでの間に、夫婦で出産について話し合うことはとても大切です。出産を女性だけのものとせず、夫婦で一緒に向き合い、どのような形で赤ちゃんを迎えるのか考えてみてください。
エナレディースクリニックでは、当院で分娩される方を対象に出産準備教室を行っています。出産がどのような流れで起こるのかをレクチャーするため、立ち会い出産を検討している方にはよい勉強の機会になるかと思います。
インスタグラムや当院の待合室にご案内を貼っておりますので、立ち会い出産を希望している方も希望していない方も、ぜひご夫婦で出産について知るために参加してみてはいかがでしょうか。