赤ちゃんが生まれて子育てが始まり、一番初めに悩むことの一つが授乳についてかもしれません。
授乳の方法としては主に母乳育児とミルクを与える2種類に分かれますが、どちらの方がいいかという問題については様々な意見がありますよね。
この記事では母乳育児にスポットを当ててご紹介していきます。
母乳育児のメリットは何か?また授乳方法や授乳中に気をつけるべきことなど、母乳育児の基本について解説していきますので、参考にしていただければ幸いです。
母乳育児のメリットとは?
母乳育児には赤ちゃんとお母さん双方にとって多くのメリットがあります。そのメリットは身体的なものからメンタル面にまで及びます。
ここでは主に5つのメリットに分けてご紹介していきたいと思います。
①栄養素や免疫物質が多い
母乳には赤ちゃんにとって必要な栄養素や免疫物質が多く含まれています。特に出産直後から数日の間にかけて出る母乳である「初乳」にはウイルスや細菌を防ぐ働きをする「免疫グロブリンA (IgA)」や「ラクトフェリン」などの免疫物質が多く含まれています。
他にも母乳には幹細胞や白血球、有益な細菌や抗体、酵素、ホルモンなどが含まれており、赤ちゃんにとって感染症とたたかったり疾患を予防し健全に発育するのに必要な成分で満たされています。
最初の6ヶ月完全母乳で育てられた赤ちゃんは、胃腸炎や風邪やインフルエンザや感染症等にかかる確率が低くなると言われています。
また、粉ミルクで育った赤ちゃんと比較すると乳幼児突然死症候群(SIDS)にかかる確率が半分になるという研究もされています。
更に、母乳は赤ちゃんの吸収しやすい形で栄養素が多く含まれています。
母乳に含まれるタンパク質は粉ミルクと比べ未消化状態なので、未成熟な赤ちゃんの体にとって吸収しやすく、下痢など調子が悪い時でも与え続けることができます。そのようなことから母乳は、赤ちゃんにとって最適な食料であると言えるのです。
②赤ちゃんの口腔発達に効果あり
後に歯が生えてきた時の噛み合わせ等、赤ちゃんの口腔発達にも母乳育児がある程度関係していると言われています。
母乳を飲む時、舌を使ってしごき出す動きをします。この動きは口周りの筋肉を発達させるのに大きな役割を果たします。
舌の正しい使い方を習得することであごの骨を押し広げ、あごの骨の成長を促すことができます。その結果綺麗な歯並びで歯が生えてくるよう土台を整えることができるのです。
この点で人工ニップルの哺乳瓶を使って育つ場合、舌のトレーニングが十分に行えず歯並びに影響を及ぼすという説もあります。
そのため、母乳育児は口腔発達にも大きな効果があると言うことができるのです。
③スキンシップの機会になる
母乳育児には精神面のメリットもあります。授乳中、赤ちゃんはお母さんの温もりを全身で感じることができます。
授乳中に長い時間触れ合ったり、目で見つめあったりすることにより幸福ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」が活性化されます。このホルモンの作用により、母親は満たされた気分になることができますし、赤ちゃんも精神的に安定します。
オキシトシンには前頭葉機能を改善させる抗うつ効果もあります。そのため、赤ちゃんの夜泣きによって睡眠不足になりがちな時期の母親の精神を安定させる面でも効果に期待できます。
④母体へのメリット
母乳育児をすることにより、産後の母親の体を回復させるという面でのメリットがあります。
産後太りに悩むお母さん方も多いかと思いますが、母乳育児には産後太りを軽減する作用もあります。一日の授乳で、最大500kcalを消費すると言われています。
これは、自転車に1時間ほど乗っている程度の運動量に値します。
また、授乳期間中にはホルモンにより排卵が抑えられ、生理が止まる人も多いです。
そのため授乳期間中は母親にとっては子宮を休める期間ともなり、産後回復を早めてくれる効果もあります。
さらに前述の「オキシトシン」というホルモンの作用により、子宮の収縮を促進させ、悪露(おろ)の排泄が活性化されることによっても、産後回復効果を得られます。
また、母体へのメリットは授乳期間中だけにとどまらず、高齢になった時にも発揮されるようです。母乳育児により骨の石灰化を強化することができるため、後に骨粗しょう症になる可能性が低くなるとも言われています。
⑤ミルク代がかからず経済的
母乳育児には経済的なメリットもあります。当然のことですが、母乳は母体から出るものなので費用はかかりません。
粉ミルクで授乳する場合、その費用は一般的に1ヶ月で1万円前後、年間で10万から15万ほどかかります。完全母乳育児の場合はこの費用が全くかからないので、とても経済的であるということが言えます。
基本の授乳方法
ここまでで母乳育児のメリットをご説明しました。それでは、実際に母乳で授乳する場合にはどのようにするのが正しい方法なのでしょうか?
初めて授乳をする時には、抱き方などわからないことが多くありますよね。ここからは、基本的な授乳方法についてご説明していきたいと思います。
正しい抱き方は?
一般的なのは「横抱き」と呼ばれる抱き方です。その名の通り赤ちゃんを横に寝かせた姿勢の抱き方になります。
飲ませる乳房の側の二の腕に赤ちゃんの頭を乗せて、両手の腕や手全体で背中やお尻を支えます。
この抱き方は一番一般的ですが、まだふにゃふにゃとしている新生児の赤ちゃんには難しい姿勢でもあります。
そこで新生児の時期には、「交差横抱き」の方が授乳しやすいかもしれません。
この場合は授乳する乳房とは反対側の手で赤ちゃんの頭を支えます。この方法なら、体の小さい新生児の体をしっかりと支えることができます。
その他にお母さんが楽な姿勢として、横になった姿勢で授乳する「添え乳」や赤ちゃんをお腹に乗せて授乳する「レイバック式」などもあります。立っている姿勢が辛い時や、腰痛がある時などにはこれらの方法を試すこともできるかもしれません。ただし、これらの姿勢は赤ちゃんの窒息などに注意しながら行う必要があります。
乳首の正しいくわえ方は?
正しくは乳首だけではなく、乳輪部分までくわえ込むのが正解です。赤ちゃんの上顎には「乳窩(にゅうか)」と呼ばれる窪みがあり、乳輪部分までしっかりくわえることによりこの乳窩に乳首が収まり母乳が飲めるようになっています。
また、授乳の際には赤ちゃんの上下の唇が巻き込まれていないかにも注意してあげましょう。上下の唇がしっかり開いて、口の外側にある状態が正しい位置になります。
授乳の頻度は?
新生児の授乳の頻度の目安は1日に3時間おき、8〜10回程度が目安です。ただし、母乳は粉ミルクと違い消化の問題が少ないので、間隔を開けることは気にせず、欲しがればいくらでもあげて大丈夫です。少量を多くの回数に分けて飲むようにするのがベストです。
痛い時の対処法とおっぱいケア
毎日授乳をしていると、乳首が痛くなってしまう、噛まれてしまった等のトラブルも生じます。いつも同じ方向で飲ませているとその部分が痛くなってくるので、普段の授乳時には方向を変えながら授乳するというのもポイントです。
噛まれて傷ができてしまった時には、くわえさせる方向や深さを変えてなるべく傷に触れないように工夫しましょう。それでもどうしても当たってしまう位置に傷がある場合には、一時的に直接母乳を与えるのを休止して、搾乳したものを哺乳瓶で与えてもよいでしょう。
授乳中専用の乳首や乳房をケアするスキンアイテムも市販されているので、日頃からそのようなアイテムを使って肌荒れ防止をすることもできます。
ゲップのさせかた
授乳の後はゲップをさせることが大事です。ゲップができないと吐き戻しなどの原因となってしまいます。
授乳の後はすぐに寝かせずに5分くらい待つようにしましょう。赤ちゃんを縦抱きにして背中をさすってあげるとゲップが出やすくなります。赤ちゃんのお腹が肩にあたるような姿勢で縦抱きすると空気が押し出されてゲップが出やすいです。
個人差はありますが、生後5〜6ヶ月頃の首が座ってくる時期にはお腹の空気も自然に排出できるようになります。それまでの期間、授乳後はゲップさせてあげるようにしましょう。
授乳中の食べ物
妊娠中から気を使うことの多かった食べ物についてですが、出産後授乳中も引き続き注意する点があるのでしょうか?
母乳を与える場合、母親の生活習慣は母乳に影響を与えます。そこで食生活に気を使うことも大切です。授乳中に食べると良いもの、逆に注意が必要なものについてご紹介したいと思います。
食べるといいもの
授乳中に摂取したい栄養素として、鉄分、カルシウム、葉酸などが挙げられます。
鉄分が多く含まれる食品にはひじき、レバー、納豆、ほうれん草、プルーンなどがあります。カルシウムは牛乳や小魚などから摂取できます。葉酸はブロッコリーやモロヘイヤ、枝豆などに多く含まれています。
授乳期には、多くの野菜や栄養素を油分は少なく摂取できる和食のメニューがおすすめです。
また授乳期には水分を十分に摂取する必要もあります。胃腸に優しく栄養素も同時に摂ることができる甘酒(原料が酒粕ではなく米麹のもの)やハーブティーなどは授乳中の方の飲み物に向いています。
注意が必要なもの
授乳中に注意が必要なのはアルコール類です。アルコールは母乳に移行するため飲酒後は授乳ができません。また、アルコールにはおっぱいを張らせる作用があるため、張っているのに母乳を与えられない、というお母さんにとって苦しい状況になってしまう可能性があります。
コーヒーは1、2杯飲む程度であれば、赤ちゃんの健康面に影響はありません。ただし赤ちゃんが寝つきにくくなるなどの可能性はあるので、気になる場合はたんぽぽコーヒーなどノンカフェインコーヒーなどを選ぶと良いかもしれません。
その他、乳製品や肉類、油っこい食品は乳腺をつまらせる原因となります。ただしこれらの食品はどの程度作用するかは個人差が大きいので、あまり神経質になりすぎる必要はないかもしれません。自身で体調や母乳の出方などを確認しながら調整していくことが大切です。
母乳が出ない時はどうしたらいい?
母乳が出ないことには様々な原因が考えられます。睡眠不足や冷え、水分不足や貧血などは母乳が出ない原因となります。
そこで、栄養バランスの良い食事や十分に睡眠を取ること、適度な運動をすることなど、健康的な生活を心がけることは大切です。
また、赤ちゃんがおっぱいを吸うことによりホルモンが分泌され母乳を出す作用があります。それで母乳が出ないとしても赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらうことも効果的です。
母体が回復していない時期は母乳が出にくくなる傾向があります。回復につれて出るようになってくる場合もあるので、母乳がすぐに出なかったとしても心配不要です。
母乳が出ないことの原因の一つにはストレスもあります。出ないことに焦りを感じてストレスを溜めてしまってはより逆効果です。母乳が出なかったとしても気を病みすぎずリラックスして過ごすようにしましょう。
母乳が出過ぎる時はどうしたらいい?
母乳が出ない悩みの一方、母乳が出過ぎてしまうという悩みもあります。母乳が出過ぎる原因としては乳腺の発達やホルモンバランスなどが挙げられますが、個人の体質である場合も多いようです。
この際の対処法は冷却することです。タオルで包んだ保冷剤などで冷やすようにすると和らげる効果があります。
母乳が出過ぎることが原因で乳腺炎などを発症することもあります。しこりや痛みなどの症状がひどい場合は医者に相談するようにしましょう。
一般的な授乳期間は?
徐々に授乳を食事に置き換えていく「離乳開始」は生後6ヶ月頃が目安です。完全に授乳をしなくなる「卒乳」は生後13〜15ヶ月頃が最も多いとされています。
しかし離乳や卒乳は月齢をあまり気にする必要はありません。赤ちゃんが自然に食べ物を欲しがるようになったタイミングで離乳を始めることができます。
また、おっぱいを欲しがる間は無理に卒乳をさせる必要もなく、自然と欲しがらなくなるまで与え続けることも問題はありません。月齢はあくまで目安として念頭に置いておきましょう。
まとめ
この記事では、母乳育児のメリットや方法、注意点などをご紹介しました。母乳育児をすることには多くのメリットがあります。お母さんと赤ちゃん双方の体にとってもメリットがありますし、絆が深まる、精神が安定するなどの面もあります。
初めての授乳は戸惑うことも多いかもしれませんが、赤ちゃんとの大切な限られた時間と思って楽しむこともできるかもしれません。ぜひ、お子さんとの素敵な授乳の時間を過ごしてくださいね。
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