ママと赤ちゃんを繋ぐ「へその緒」。赤ちゃんと繋がっていた証であるへその緒をずっと大切に保管しているママも少なくありません。
へその緒から採取できる臍帯血(さいたいけつ)が、難病の治療に役立つことをご存知ですか?
この記事では臍帯血(さいたいけつ)について詳しく紹介。採取方法や臍帯血移植のメリット・デメリット、公的・民間の臍帯血バンクの違いやママやパパの疑問を解説します。
「臍帯血について知りたい」というママやパパは是非参考にしてみて下さい。
臍帯血(さいたいけつ)とは
臍帯血(さいたいけつ)とは、赤ちゃんとママを繋ぐ臍帯(へその緒)と胎盤に残った赤ちゃんの血液のこと。臍帯血には造血幹細胞という組織が多く含まれており、臍帯血から取り出した造血幹細胞は病気の治療に有効だという研究結果が出ています。
臍帯血から採取された造血幹細胞を病気の治療のために移植することを「臍帯血移植」といい、これまで治療が難しいとされてきた病気の治療で目覚ましい成果を挙げているケースも多数あります。
赤ちゃんを出産した時に採取できる臍帯血は、病気に苦しむ人を救う大切な命のバトンです。日本造血細胞移植データセンターの報告によると、2022年は1,335件もの臍帯血移植手術が行われたという報告があります。
臍帯血移植が治療方法として確立されてからの移植件数は20,002件(2021年3月時点)に上ります。これだけ多くの人が、ママと赤ちゃんの命のバトンをもらって難病の治療に臨んでいるのです。
参照:移植データ | 一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター (jdchct.or.jp)
臍帯血(さいたいけつ)の採取方法
臍帯血が臍帯(へその緒)と胎盤に残った赤ちゃんの血液だということは分かったものの「どうやって採取するの?」と疑問に感じるママも多いでしょう。続いては臍帯血の採取方法について紹介していきます。
臍帯血は出産時にしか採取できない
臍帯血移植に利用するための臍帯血は、高い品質を保った状態で採取・保存をする必要があります。そのため、臍帯血を採取できるのは赤ちゃんを出産してからわずか数分間の間だけ。
長く時間がかかり過ぎてしまうと、胎盤が排出されて品質を保ちながら臍帯血を採取するのが難しくなります。採取した臍帯血を適切に保管するためには、臍帯血に関する高度な知識も必要なため臍帯血採取をできる医療機関は限られています。
採取の流れ
ママが赤ちゃんを出産した際、産後すぐに臍帯(へその緒)は切り離されます。つまり、残りの臍帯と胎盤はまだママのお腹の中にあるということです。
臍帯血はなるべく造血幹細胞が新鮮な状態で採取する必要があるため、ママのお腹に残った状態の臍帯や胎盤から採取します。胎盤は産後10~15分程度で自然と排出されてしまうため、産後すぐの採取が必要です。
臍帯血はママの体内に残った臍帯の表面に針を刺して臍帯血採取専用バッグを用いて採取します。臍帯血採取専用バッグは点滴に用いる輸液パックのような形で、針を刺した後は重力に従って臍帯血がバッグの中に溜まっていく仕組みです。
臍帯の表面は痛覚がないので、特に痛みを感じることもありません。臍帯血は平均70~80cc程採取でき、採取後は胎盤が自然と排出されてお産終了です。
実際に臍帯血を採取したママの中には「無事出産した安心感と疲労感で何をされているか分からない内に臍帯血採取が終わっていた」なんて声も。臍帯血はママや赤ちゃんにとって痛みや危険のない方法で採取されます。
臍帯血(さいたいけつ)を病気の治療に利用するメリット・デメリット
ここまでの内容で「臍帯血って病気の治療に役立つんだ」ということをお分かり頂けたでしょうが、同じ造血幹細胞を用いた治療方法には骨髄移植などもあります。
「骨髄移植の方が有名じゃないの?」「骨髄移植じゃだめなの?」と思う人もいるでしょう。臍帯血を用いた治療には骨髄移植にないメリットがありました。続いては臍帯血移植のメリット・デメリットについて紹介します。
メリット
臍帯血移植には大きく分けて2つのメリットがあります。
- 白血球の型(HLA型)が全て一致しなくても移植できる。
- 提供者(ママや赤ちゃん)の負担がほとんどない。
臍帯血移植と同じように、造血幹細胞を治療に用いる際に行われる骨髄移植。骨髄移植は白血球の型(HLA型)が一致しないとお互いが持つ白血球が攻撃し合い拒絶反応が起こってしまうケースがあります。
HLA型の一致率は兄弟で4分の1の確率と言われ、親族に一致する型が見つからないと他人と一致する確立は大きく下がります。
生まれたばかりの赤ちゃんは白血球の働きも未熟。そのためHLA型が完全に一致しなくても拒絶反応の心配が少なく移植に用いることができます。
その他にも、骨髄を提供するためには提供者(ドナー)が全身麻酔を受けて骨髄を採取する必要があり、処置の際の痛みなども合わせると提供者の負担が大きくなります。臍帯血は提供者であるママや赤ちゃんに負担がほとんどない状態で採取できるのも大きなメリットと言えます。
デメリット
臍帯血のデメリットには以下のものが挙げられます。
- 高品質な状態で採取・保存するため採取に対応できる医療機関が限られている。
臍帯血採取を行える医療機関は限られているため、通院している医療機関で対応できない場合、転院を検討するママもいるそうです。
臍帯血(さいたいけつ)を使った治療が効果的な病気
臍帯血を使った治療が効果的な病気には、【白血病、再生不良性貧血、先天性免疫不全症、先天性代謝異常疾患】などがあります。
特に白血病は、水泳の池江瑠花子選手が発症したことで記憶に新しいのではないでしょうか?池江選手が白血病であることを発表した直後、骨髄バンクには提供希望の問い合わせが殺到したそうです。
池江選手以外にも、これらの病気に苦しむ人は数多くいます。そんな人達に希望を与えられママにしかできないこと、それが臍帯血提供だと言えるでしょう。
また、臍帯血にはまだまだ研究の余地があり今後さまざまな医療に役立つことが期待されています。もしも自分自身や家族が病気になった時、臍帯血に助けられる機会があるかもしれませんね。
臍帯血(さいたいけつ)バンクには公的バンクと民間バンクがある
臍帯血は医療機関で採取された後、適切な方法で保存され臍帯血バンクと呼ばれる臍帯血供給事業者へ送られます。臍帯血を長期間保存しておく機関が臍帯血バンクです。
臍帯血バンクには公的機関と民間機関があり、それぞれに全く違う目的で臍帯血を保存しているのも特徴の1つです。臍帯血採取を希望する際には、公的臍帯バンクと民間臍帯バンク、それぞれの違いをよく知った上でどこに提供・保存するのか検討する必要があります。
公的臍帯血バンクの特徴
公的臍帯血バンクは、臍帯血の採取や移植に最適な状態への調整、保存を行い、臍帯血移植を希望する医療機関へ臍帯血を引き渡す役割を担っています。公的臍帯血バンクは、国の基準に従い高い精度の品質保持や保管が求められるため、限られた提携医療機関でしか採取できないのも特徴の1つです。
公的臍帯血バンクではママに無償で提供してもらった臍帯血を医療に役立てることを目的としているため、自分や家族が病気になった時に提供した臍帯血を指定して使うことなどはできず、採取や保管は無料で行われます。献血のような感覚で利用するバンクと考えて良いでしょう。
公的臍帯血バンクは厚生労働省の認可を受けた業者が運営し、全国で6カ所(北海道臍帯血バンク、関東甲信越臍帯バンク、中部臍帯血バンク、近畿臍帯血バンク、兵庫臍帯血バンク、九州臍帯血バンク)のみ。それぞれが提携している医療機関でのみ、公的臍帯血バンクへの臍帯血提供(採取)が可能です。
エナレディースクリニックは、北海道臍帯血バンクに協力している数少ない施設のひとつです。ご提供いただける方は手続きなどがございますので、妊婦健診時にスタッフまでお申し出ください。
北海道で臍帯血を採取できる医療機関は「日本赤十字社北海道さい帯血バンク」のホームページをご確認ください。
民間臍帯血バンクの特徴
民間臍帯血バンクは厚生労働省の許可外で臍帯血の保存を行っている私的機関です。そのため、調整や保存などの基準が公的臍帯血バンクの基準と同等でない場合もあります。民間臍帯血バンクは業者によって基準が異なるため、産院や医療機関が了承すればどの病院でも臍帯血の採取・保存が可能です。
公的臍帯血バンクが医療を目的として臍帯血を保存しているのに対し、民間臍帯血バンクは将来的にママや赤ちゃん、家族などが再生医療や細胞治療などに使用することを目的として保存しているケースが多いのも特徴的です。
世界中で臍帯血を利用した再生医療などの研究が行われていますが、2021年現在臍帯血の再生医療や細胞治療への利用は認められていません。民間臍帯血バンクでは臍帯血の保管が有料であるのも、公的臍帯血バンクとの大きな特徴の違い。平均的に20万以上必要なケースが多いと言われています。
ママ・パパが気になる臍帯血(さいたいけつ)の疑問
臍帯血の採取を検討しているママ・パパにとって、まだまだ知りたいことは山のようにあるでしょう。ここからは臍帯血の採取を検討しているママ・パパが気になる疑問にお答えしていきます。
採取は痛いの?
臍帯血の採取方法でも紹介しましたが、臍帯血の採取は赤ちゃんにもママにも特に痛みはありません。
切り離した臍帯の表面に針を刺すだけで採取ができるので、採取されていることに気付かないまま終わってしまったというママも少なくない程です。
パパや初産のママには想像しにくいかもしれませんが、へその緒を切った時に「痛い!」と叫ぶママなんて聞いたことがないですよね。赤ちゃんを切り離しても痛みを感じない部分なので、注射針で痛みを感じることもないでしょう。
臍帯血採取をすると予定分娩になるの?
公的臍帯血バンクに臍帯血を提供する場合、高精度の品質保持が求められるため臍帯血採取に関する知識や技術を持った医師が採取を行います。
医療機関によっては予定分娩を行い確実に臍帯血採取の知識や技術を持った医師が分娩に立ち会うというケースもあるようですが、多くの場合は予定出産になることなく自然な陣痛を待って出産・臍帯血採取を行っています。
早産や帝王切開、双子(多胎)でも臍帯血は採取できるの?
臍帯血を採取する時に一番重視されるのはママと赤ちゃんの健康です。厚生労働省の規定によるとママや赤ちゃんの健康に問題がある場合、臍帯血の採取はできないとされています。
「ママや赤ちゃんの健康に問題がある場合」という状態には、早産・帝王切開・双子(多胎妊娠)も含まれます。
その他にも、胎盤の娩出が安全に行えない場合なども提供用臍帯血の採取はできないとされているので、希望していたものの何らかのトラブルによって臍帯血採取が出来なかったというケースもあるようです。
出産において何より大切なのはママと赤ちゃんが無事出産を終えることなので、「ママと赤ちゃんの健康が最優先。その上で、できれば臍帯血を提供しよう」という気持ちで臨むのが良いでしょう。
保管した臍帯血は自分にも使える?
民間臍帯血バンクは臍帯血を私的に利用することを目的に保存しているので、もしもの時は医療に用いることのできる品質が保たれていれば赤ちゃん自身や家族に臍帯血を使うことも可能です。
しかし、公的臍帯血バンクに一度寄付した臍帯血の中から自分自身の臍帯血を指定して治療に使うことや、臍帯血を提供したからといって優先的に臍帯血移植を受けられるということはありません。
2021年現在、臍帯血は十分に確保されているため、自分自身の臍帯血でなくても適応できる臍帯血が見つかる可能性は90%と言われています。
臍帯血採取をした後へその緒はもらえる?
臍帯血を採取した後、へその緒をもらえるかどうかは病院によって異なります。臍帯血提供を行ったママの多くは、産後へその緒をもらえたそうです。
病院で臍帯血提供の相談をする際、へその緒をもらえるのか医師に確認してみると良いでしょう。
まとめ
出産の際にだけ採取できる臍帯血。病気の治療に役立ち、医療の発展と共に今後活躍の機会は増えていくかもしれません。
病気で困っている人の役に立ちたいという人は公的臍帯血バンクへ、医療が発展することを願い赤ちゃんや家族の将来の備えをしたいという人は民間臍帯血バンクへ。それぞれの特徴をよく理解して提供・保存先を慎重に選びましょう。
これから生まれる赤ちゃんが生きていく明るい未来を想像しながら、臍帯血提供について夫婦で話し合ってみてくださいね。
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