妊婦の20人に1人が発症すると言われる妊娠高血圧症候群。誰にでも発症するリスクがあり、ママと赤ちゃんにとって危険な病気の1つです。
この記事では妊娠高血圧症候群がどんな病気なのか、原因や症状、治療方法や予防策などを紹介しています。
「妊娠高血圧症候群ってどんな症状がでるの?」
「赤ちゃんにはどんな影響がでるの?」
「妊娠高血圧症候群になると帝王切開になるって本当?」
そんな疑問を持っているママは是非参考にしてみて下さい。
妊娠高血圧症候群とは
妊娠高血圧症候群は、昔から「妊娠中毒症」として知られてきた妊婦特有の病気の1つです。
現在は、【妊娠高血圧症・妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併症】など妊娠中に起こる高血圧症疾患群の総称として「妊娠高血圧症候群(HDP)」と呼ばれます。
妊娠高血圧症候群は妊婦全体の7~10%が発症すると言われており、妊娠前の高血圧に関係なく誰にでも起こり得る病気です。
妊娠高血圧症候群の分類
妊娠高血圧症候群は、症状の現れ方によって症名が細かく分類されます。
妊娠高血圧症 |
|
---|---|
妊娠高血圧腎症 |
|
加重型妊娠高血圧腎症 |
|
高血圧合併妊娠 |
|
症状の現れ方による妊娠高血圧症候群の分類
妊娠高血圧症候群は、症状の現れ方や発症の時期によっても分類されます。
重症 | 血圧が 収縮期血圧160mmHg以上 または 拡張期血圧110mmHg以上 |
---|---|
早発型 | 妊娠34週未満にたんぱく尿がみられる |
遅発型 | 妊娠34週以降にたんぱく尿がみられる |
2018年には妊娠高血圧症候群のガイドラインが変更
これまでは、妊娠高血圧に加えてたんぱく尿が認められない場合には他の症状があっても妊娠高血圧症として診断されていましたが、2018年に妊娠高血圧症候群のガイドラインが変更。
高血圧が先行した状態でたんぱく尿がなくても、妊娠高血圧症に伴う肝臓や腎臓の機能障害、子癇や頭痛などの神経障害、血小板が減少する血液凝固障害、赤ちゃんの発育不全のいずれかが認められる場合には「妊娠高血圧腎症」と診断されるようになりました。
妊娠高血圧症候群以外の妊娠に関わる高血圧
妊娠高血圧症候群には分類されませんが、病院で測定する時にだけ血圧が上がってしまう「白衣高血圧」という症状があります。
緊張から血圧が上がりやすい人に多く、普段はそこまで血圧が高くないのに病院で血圧を測定する時にだけ緊張して高い数値が測定されてしまいます。自宅で過ごす際に適正な血圧であれば特に問題はありません。
白衣高血圧から本当に妊娠高血圧症になるケースもあるので、白衣高血圧の人は自宅で毎日血圧を測定するのが望ましいとされています。
妊娠高血圧症候群の検査方法と診断基準
妊娠高血圧症候群の検査には、基本的に血圧測定と尿検査が用いられます。
血圧測定では6時間以上空けて2回以上の測定を行い、両方またはどちらかで妊娠高血圧症候群の診断基準となる血圧が測定された場合に診断を受けます。
尿検査ではたんぱく尿の擬陽性が出る場合があるため、精密に検査する場合1日分の尿からたんぱく量を計算する病院もあります。
妊娠高血圧症候群では以下の測定結果が診断の基準となります。
- 収縮期血圧140mmhg以上(重度の場合は160mmhg以上)
- 拡張期血圧90mmhg以上(重度の場合は110mmhg以上)
- 1日当たりの尿たんぱく0.3g以上で尿たんぱくと診断
妊娠高血圧症候群の症状と合併症
妊娠高血圧症候群は自覚症状のほとんどない病気で、妊婦検診で診断を受けるケースが多いです。稀に【重度のむくみ、頭痛、目の前がチカチカする、お腹の上部が痛み吐き気や嘔吐がある、1週間で1kg以上体重が増える】などの症状が現れる場合があります。
また、妊娠高血圧症候群では以下の合併症を引き起こすリスクが高まることが分かっています。
子癇
子癇とはてんかんや二次性けいれんなどの原因が否定された状態で妊娠20週以降に初めて起こるけいれん発作のことを言います。
長時間続くと母子ともに命の危険があり、なかには脳出血などが原因で起こっているケースもあります。
HELLP症候群
HELLP症候群は、溶血性貧血、肝逸脱酸素の上昇、血小板減少の症状を引き起こす病気です。
妊娠の後半に発症しやすく、発見が遅れるとさまざまな臓器に致命的なダメージを受ける可能性が高い病気です。
急性妊娠性脂肪肝
急性妊娠性脂肪肝は、過剰な脂肪が肝臓に蓄積する病気です。妊娠37週頃に発症するケースが非常に多く、妊娠が継続している限り改善されないのが特徴です。放置すれば肝不全に陥るリスクも高いでしょう。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離は、出産前に胎盤が剥がれ落ちてしまうことを言います。母子ともに死亡率が高く、妊娠高血圧症候群を発症していなくても全妊婦の0.5~1.3%に起こるというデータもあります。
常位胎盤早期剥離を発症し、子宮からの出血が止まらない場合、子宮摘出などの処置を行うケースも珍しくありません。
胎児発育不全
胎児発育不全とは、胎児の成長が妊娠数週に合わせた発育過程から遅れてしまうことを言います。同様に、妊娠高血圧症候群の合併症として胎児の臓器等の働きが充分に育たない胎児機能不全を引き起こす可能性もあります。
妊娠高血圧症候群になるリスクが高い人の特徴
妊娠高血圧症候群になるリスクが高い人の特徴は以下になります。
- 妊娠前から内科疾患(高血圧、糖尿病、慢性腎炎、SLE、高リン脂質抵抗症候群)がある人
- 肥満体質の人
- 15歳未満、もしくは40歳以上の人
- 血圧が120/80 mmHg≧の人
- 高血圧、または妊娠高血圧症候群になった家族がいる人
- 多胎妊娠の人
- 以前の妊娠時に妊娠高血圧症候群になった人
- 生殖補助医療や卵子提供で妊娠した人
妊娠高血圧症候群の治療方法
妊娠高血圧症候群と診断されたら、ママと赤ちゃんの命を守るため医師の指示に従い適切な治療や管理を行う必要があります。
薬物療法
通常なら高血圧症には血圧を下げる働きのある降圧剤を処方されることもありますが、妊娠中の降圧剤服用はママや赤ちゃんにとってハイリスクになるケースがあります。ママの血圧が下がることで、赤ちゃんへ酸素や栄養を届けにくくなり低酸素や低栄養を引き起こしてしまうことも。さらに急激に血圧が上昇した場合には、降圧剤のみの治療では症状が改善しないケースもあります。
妊娠中の降圧剤投与は医師の指示・管理の下行われるもの。特に高血圧合併妊娠で、妊娠前から降圧剤を処方されている人は自己判断で服用しないよう注意しましょう。
食事療法
高血圧の治療として食事療法が有名ですが、妊娠中に過度の食事制限を行うと健康な妊娠を維持する妨げになってしまうことがあります。
高血圧の食事療法として一般的な水分摂取制限や利尿剤の服用も、妊婦には血栓症を高めてしまうリスクがあります。近年では過度な塩分制限による効果も疑問視されているので、食事療法を行う場合は医師の指示を仰ぎ妊婦であるママに適した食事療法を行いましょう。
計画出産
妊娠高血圧症候群は、妊娠の終了と共に症状が収まるケースが一般的です。現在の医学では対処療法はあっても完治させる方法はないとされているため、最も有効なのは出産し妊娠を終了させることです。
そのためママや赤ちゃんが危険な状態になった場合には、帝王切開や促進分娩などが行われます。ママや赤ちゃんに危険がない場合でも妊娠高血圧症候群と診断された場合、正産期を大幅に超過せず早めの分娩を促すケースが多いでしょう。
妊娠高血圧症候群になった人は産後も注意が必要
妊娠高血圧症候群は遺伝的に高血圧になりやすい人にも起こりやすい病気です。妊娠高血圧症になったママは、加齢と共に高血圧症を発症するケースが珍しくありません。自分が高血圧になりやすい体質だと考え、生活習慣の改善に取り組むと良いですね。
妊娠中は予防や早期発見につとめ、産後も健康的な食生活が欠かせません。妊娠高血圧症と診断された時は、医師の指示にしたがって妊娠期間を過ごしママも赤ちゃんも健康な出産を目指しましょう。
コラム一覧に戻る